今昔美術対談 Art Interview Vol.001 竹久夢二の魅力に迫る

日本の誇る芸術家、竹久夢二について、竹久夢二美術館(弥生美術館)の鹿野館長を、 弊社代表取締役である加島がお話を伺った。 作品だけではない夢二の人物像を垣間見た楽しい時間が流れた。

加島
本日はご多忙中にもかゝわらず対談をお引受け下さいまして有難うございます。
早速ですが、鹿野先生と竹久夢二の出会いはどのようなものだったか、その辺りからお聞かせ下さい。
鹿野
私は大正後半の生まれですが、昭和の少年時代で夢二と直接の出会いはありません。もともと高畠華宵のファンだったのです。華宵は晩年私の家で生活しており、亡くなった時はそこから葬儀を出したのです。その葬儀のことを扱った新聞に“竹久夢二と並び称される高畠華宵が故人となった”と報道されていて、華宵が一番良いと思っている私にとって、名前こそ知っているけれど竹久夢二という絵描きはそんなにすごいのだろうか、と少し変な気持ちもあり、夢二に関心を持つようになりました。
昭和二〇年迄日本は軍国主義の時代であり、夢二は非常に評判が悪いのです。品行が悪いということ、女性に対してだらしないということです。
ところが、戦後、私の親しい人に聞いてみると「夢二の人となりも作品もとてもいい」「絵に詩情がある」というのです。この事は夢二自身も「私は詩人になりたかった。でも詩は生活の糧にならない」「そこで、詩情を込めた絵を描こう」と言っているんですね。彼の絵は彼の詩なのです。いろいろ調べて行くうちに私は少しづつ夢二の絵即ち詩に共感を覚えるようになったのです。
加島
先生が夢二に引き込まれていかれる様子がわかって参りました。先生は夢二作品に大正ロマンをお感じになるのでしょう。
鹿野
そうです。あの時代の大切な情感が夢二の絵にあって、慕情、はかなさ、愛情などという様なものですね。それがポエムとなって絵に表現されているのを感じるのです。
加島
なるほど判る様な気が致します。それでは次に、こちらの軸装された「暮笛」という題の夢二作品についてお話をお伺いしたいと思います。

竹久夢二の魅力を語る鹿野館長

鹿野
私は夢二の息子さんである不二彦さんと大変親しくて、或る時、夢二の絵の魅力について彼に尋ねたことがあるのです。彼はこう言いました「夢二作品の一番大切なところ核心は万葉にあります。そして第2は日本の古俚謡、そして第3はイギリスのマザーグース。この三つが作品を理解する上でのキーワードなのです。」と教えてくれました。この暮笛という作品はその最も重要な万葉集に根差していると思うのです。ここに、この絵と同じ『暮笛』(BOTEKI)と題のついた夢二の本があります。この中に「たらちねの 母が呼ぶ名を 申さめど 道行き人の 誰と知りてか」という歌が出てくるのですが、これが万葉の歌なのです。本の題名と作品の画題を結ぶ線であると考えられます。笛を吹いている少年とそのガールフレンドが夕暮近い野辺で語り合っている。昔も今も人と人をつなぐものは愛情なのです。ロマンは不変ということだと思うのです。この絵も夢二のポエムなのですね。夢二の絵は夢二の詩情を読み取れればいいのです。私はそう思います。
加島
そうすると、この絵でも夢二は人間の不変の愛というものとか人を恋うるとかいうことを、日本の古典である万葉の歌に求めて表現したかったのでしょうか。
鹿野
そうですね。日本人の心の原点はやはり万葉ですね。そして夢二は愛ということを非常に大切にした人なんですね。彼の絵には、深水、清方、そして華宵等とは大きく違う愛・ポエムの情感が注入されているんです。それが人の心を打つんじゃないでしょうか。人を愛することが並はずれて深かった故に、何度も恋愛をし、それぞれの女性を深く愛した。そして、それら愛された女性の人たちは一人として彼を憎んだ人がない。これは大変なことだと思います。
私は夢二のことをもっともっと知りたいと思います。知るための努力をこれからも続けていきたいと思っています。
加島
本日は先生の夢二に対する深い思い入れをお聞き出来て感動致しました。
長時間のお話しありがとうございました。

※上記は美術品販売カタログ美祭1(2007年4月)に掲載された対談です。

profile

株式会社 加島美術 加島盛夫

  • 株式会社 加島美術
  • 加島盛夫
  • 昭和63年美術品商株式会社加島美術を設立創業。加島美術古書部を併設し、通信販売事業として自社販売目録「をちほ」を発刊。「近代文士の筆跡展」・「幕末の三舟展」などデパート展示会なども多数企画。

竹久夢二美術館前理事長 故・鹿野琢見

  • 竹久夢二美術館前理事長
  • 故・鹿野琢見
  • 昭和59年弥生美術館を設立。平成2年竹久夢二美術館を併設。主な展示作家、竹久夢二・高畠華宵・中原淳一など。

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