WORK OF THE MONTH
2026
2026.03
絹本 着色 長崎文献社「栗原玉葉 長崎がうんだ、夭折の女性画家」所載
131×41㎝/224×57㎝
明治16年、長崎に生まれた日本画家・栗原玉葉。瑞々しい感性で描く美人画によって人気を博すも、40歳という若さでこの世を去りました。
本作には、華やかな振袖姿の女性が描かれています。玉葉は画面全体の調和を重んじ、とりわけ色彩の調和を追求しました。振袖の紅を際立たせるように、髷、帯、下駄へと連なる黒がリズミカルに配され、金泥の花文様や絞りの細密な表現が華やかさを高めます。一方、女性の面差しは実に涼やかで若々しさを感じます。舞い落ちる桜の花びらには、束の間の美をとどめようとする玉葉の繊細な眼差しが感じられる優品です。
2026.02
絹本 着色
130×35㎝ / 198×48㎝
明治から昭和にかけて京都を拠点に活躍した神坂雪佳は、琳派の精神を近代に継承した図案家であり日本画家です。本作は、咲き始めの白梅と藪柑子の赤い実の対比が美しい一幅。梅の幹には琳派特有のたらしこみが用いられ、緑の苔がにじむような表情からは樹木に宿る時間の積層や静かな息づかいが伝わってくるようです。
縦長の画面を梅の枝が横切る大胆な構図と、簡潔で装飾的な花の造形に雪佳ならではのモダンな感覚が光っています。日本の古典的画題と新たな造形性が調和した本作は、近代琳派を代表する雪佳らしさを感じる逸品です。
2026.01
絹本 着色 真野暁亭箱書
101×33㎝/193×45㎝
幕末から明治にかけて活躍した河鍋暁斎は、歌川国芳や駿河台狩野派に学び、浮世絵から古典絵画、中国画、西洋画法などあらゆる画技を貪欲に吸収した稀有な絵師です。画題は多岐にわたり、卓越した技術と機知に富んだ発想が今なお人気を集めています。
本作には福徳の神・大黒天と、その袋から顔をのぞかせるお多福がユーモラスに描かれています。さらに春の訪れを告げる梅の花と朝日が配され、豊穣と円満、笑顔に満ちた吉祥の世界を軽やかに描き出しています。暁斎ならではの感性が結晶した、晴れやかで縁起の良い一幅です。
2025
2025.12
渡邊省亭 《常盤雪行図》
絹本 着色 共箱
昭和14年對柳荘御所蔵品入札目録所載
104×35㎝ / 192×48㎝
明治から大正にかけて活躍した渡邊省亭は、写実と透明感のある彩色で近代日本画を拓いた画家のひとりです。花鳥画で知られる一方、菊池容斎に学んだ女性像も秀逸で、切れ長の目元の涼やかな瓜実顔は省亭美人と称されるほど。
本作は源義朝の側室・常盤御前が三人の子を連れ雪道を逃れゆく場面。雪景に映える紅衣が親子の過酷な旅路を鮮烈に彩ります。
その卓越した色彩感覚が物語性を高め、優美さの裏に潜む緊張感まで描き出しており、省亭独自の美意識が凝縮された一幅といえるでしょう。
2025.11
紙本 水墨 浦上家史編纂委員会「浦上玉堂関係叢書浦上玉堂 父子の藝術」所載
38×29cm / 134×41cm
浦上玉堂は江戸中期、備前岡山藩士の家に生まれた文人画家です。琴詩書画を愛し、とりわけ水墨画で独自の境地を切り開きました。
本格的に画業に取り組み始めたのは四十代から。筆草を用いるなど、掠れを生かした擦筆表現を極めました。本作では筆の掠れによって木々の鋭さや山間の空気のふくよかさを感じる静謐な風景を描いています。それは、玉堂の心象風景そのものかもしれません。職業画人を拒み、文人として自由な筆を選んだ孤高の精神がこの一幅から静かに伝わってきます。
2025.10
2025.09
絹本 着色 菅原白龍箱書
116×49㎝ / 218×65㎝
岩井江雲は江戸中期の絵師で、中国の沈南蘋に学んだ熊代熊斐の門人と伝えられています。しかしその生涯は不明な点が多く、僅かな記録からその存在を知るにとどまります。
本作に描かれるのは、水辺に遊ぶ鴨と秋草。羽毛や水かき、岩肌の質感までも綿密に写し取る精緻な表現と、濃淡の妙により立体感を生み出す筆致は南蘋派の特徴をよく伝えています。野性味ある鴨の眼差しは今にも動き出しそうな迫真性を備え、江雲の確かな力量を物語ります。秋景を気品豊かに描いた本作は、季節に寄り添う閑雅なひとときを誘う作品です。
2025.08
紙本 着色 安田靫彦旧蔵
45×30㎝ / 120×40㎝
江戸幕府の三代将軍・徳川家光は、幕府の礎を確立した政治手腕で知られる一方、文芸諸道にも通じ、自ら絵筆をとりました。
本作に描かれるのは、吉祥の図柄である木兎。写実を離れた金色の大きな瞳と、愛らしい羽根の表現が独創的です。狩野探幽をはじめとする御用絵師を抱え、天下人として数多の美を見聞きしてきた家光が、あえて選んだこの“ゆるさ”こそが、彼の真骨頂。
古美術への深い造詣と卓抜した審美眼を誇った安田靫彦旧蔵の本作。常識にとらわれぬ悠然たる魅力をたたえ、時を超えて見る者を惹きつける逸品です。
※本作品は「美術品入札会 廻 -MEGURU-」Vol.23MAIN SALE 出品作品です。8月23日〜31日に開催する下見会にてご高覧いただけます。
2025.07
紙本 着色 古筆了悦箱書 熊谷三太郎旧蔵
昭和5年11月3日東京美術倶楽部某家売立目録所載
21×31㎝ / 117×72㎝
戦国武将・荒木村重の子として生まれ、一族を信長に滅ぼされるという数奇な運命をたどった岩佐又兵衛。狩野派や土佐派など多様な流派に学びながらも、既成の様式に縛られず独自の画風を確立し、浮世絵の祖と称されました。歌聖・柿本人麻呂を描いた本作にも、面長でふっくらとした頬(豊頬長頤)を特徴とする又兵衛ならではの人物描写が見られ、伝統的な歌仙絵の形式に則りながらも、その気品と気迫を現代にまで蘇らせています。又兵衛の高い芸術性が際立つ、まさに手元に置きたい逸品です。
2025.06
紙本 淡彩 川端茂章鑑定書
140×39㎝ / 231×55㎝
江戸時代を代表する絵師、円山應挙は「写生」を重んじた革新的な画風で、日本絵画の流れを大きく変えた存在です。本作に描かれているのは、芭蕉の茎をゆっくりと這いのぼる一匹の蝸牛。墨の濃淡と筆跡だけで芭蕉の迫力や生命力を表現する技量は見事。蝸牛の姿からは、ゆっくり大地を這い、ようやくここまでたどり着いた小さな命の物語が見えてくるようです。
大胆な構図と繊細な観察眼が融合した本作は、自然の営みに深く寄り添った應挙の個性が光る一幅。静けさの中に生命の鼓動が感じられ、長く眺めていたくなることでしょう。
2025.05
絹本 着色
166×87㎝ / 229×104㎝
江戸後期の画家である小泉檀山は、現在の栃木県益子市に生まれ、宮司として務める傍ら多くの作品を描き、また数多くの弟子を育てました。「檀山といえば鮎」と称されるほどの鮎図の名手ですが、今回は檀山の技量が凝縮した迫力ある山水画を紹介します。
荒波が押し寄せる断崖に酒を酌み交わす君子たちの姿。波間を覗き込もうとする様子も描かれ、その佇まいからは、荒々しい自然のなかでも静かなひとときを楽しむ「不動の心」が感じられます。自然の激しさと静謐な精神性の対比が巧みに表現された本作は、小泉檀山の卓越した筆致と感性を存分に物語る一枚といえるでしょう。
2025.04
紙本 淡彩
101×28㎝ / 178×30㎝
与謝蕪村は松尾芭蕉、小林一茶と並び、江戸時代を代表する俳諧の巨匠です。さらに優れた画人でもあり、晩年には、詩的な画と情感たっぷりの俳句が相互に響きあう俳画の世界を確立しました。本作では、同じ春の夜を見つめながらも、夕暮れのひとときを惜しむ中国の詩人と、紫に染まる明け方に美を見出す日本の歌人の姿を描いています。見れば思わず笑みがこぼれるようなほのぼのとした画風はまさに蕪村の真骨頂。言葉と絵のあいだを軽やかに行き来した蕪村だからこそ、国を越えて、二人の歌人と詩人が並び語らう幻想の光景を描き得たのではないでしょうか。
賛:
もろこしの詩客は一刻の宵をゝしみ 日のもとの歌人はむらさきの曙をうらめり 春の夜や宵曙のその中に
2025.03
紙本 水墨
23×88㎝ / 120×99㎝
狩野永徳を祖父に持ち、わずか16歳で江戸幕府の御用絵師となった狩野探幽。その華麗な生涯と、晩年まで衰えることのなかった創作意欲は、岡倉天心に「画壇の家康」と称されました。
探幽の水墨画は、古典に学んだ様式美と、墨の濃淡を巧みに操る遠近表現が魅力です。本作では、淡墨と濃墨を用いた「破墨」の技法により、立体感と質感が見事に描き出されています。豊かな余白は静謐な情景を際立たせ、山裾の木々の合間に佇む寺院らしき建物には人の気配さえ感じられます。水墨の世界に生命を吹き込む、探幽の卓越した筆致が光る一幅です。
2025.02
紙本 淡彩 山内容堂箱書 高林家旧蔵 墨美社「墨美第一九二号」所蔵
134×55㎝ / 212×73㎝
池大雅は江戸時代中期に活躍した文人画家であり、自ら各地を歩くことで単なる中国絵画の模倣にとどまらない、伸びやかで臨場感あふれる山水画を数多く描きました。
本作は、まさに池大雅の山水画の真骨頂といえる一作です。幾重にも重なる線条で表現された岩肌と、もくもくと湧き上がるような山の姿は、自然の中に息づく「静」と「動」という、相反する要素を見事に描き切っています。賛文は儒学者・村瀬栲亭によるもので、軽妙な書風で俗世を離れた静けさへの憧れを表現しています。同時代の二人の才能が響きあう様をぜひ、ご堪能ください。
賛文:江上青山々上山嵐光晴映水雲間翠微恰有僧房在何以得分半日閑
2025.01
2024
2024.11
大愚良寛《このみやの…》
小色紙台貼幅 紙本 会津八一・安田靫彦箱書
18×17㎝ / 130×53㎝
江戸時代を代表する禅僧、良寛はその清貧自在な生き方や精神性が今も多くの人を魅了しています。ときに子らと遊ぶ純真無垢さ、自由で豊かな心の在り様は和歌や書によく表われています。本作は、厳かな樫の木に雪が降り積もっていく様子を詠んだもの。清廉で儚い雪と、力強く根を張る木の対比が情緒的で、良寛の目にどれほど世界が美しく映っていたかわかります。のびやかで親しみのある書も作品の魅力です。後世、魯山人は良寛の人柄を体現するような書を評して「真善美を兼ね備えたもの」と記しています。冬に向けてじっくりと鑑賞したい、心が洗われるような作品です。
読み:このみやのみやのみさかにいててたては みゆきふりけりいつかしかへに
2024.09
絹本 着色 渡邊崋石箱書
東京美術青年會「渡邉崋山先生綿心図譜」所載
昭和15年「憂國の畫傑渡邊崋山先生百年記念展覧会」出品
昭和16年東京美術倶楽部尾崎楽山堂此君室蔵品入札目録所載
122×41㎝ / 207×58㎝
江戸後期に田原藩家老を務めた渡邊崋山は、優れた蘭学者であり、また絵師としても卓越した才を発揮しました。谷文晁に師事し、後に中国や西洋の絵画を学んだ崋山の作品は、日本画らしい画題のなかに西洋の写実性を取り入れた独自の画風が魅力。本作で描かれた鴨の胸元は羽がわずかに抜け落ち、なんともリアル。線の一つ一つに崋山の鋭い観察眼が宿っています。一方で、画面を引き締める紅葉や緑のグラデーションは季節の移ろいを繊細に、そして情緒的に表現しています。時代の先覚者だった崋山の知と品格、そして探求心が遺憾なく発揮された作品です。
2024.07
紙本 田山方南極書
63×38㎝ / 146×50㎝
「一休さん」の愛称で今なお愛される室町時代の禅僧、一休宗純。禅僧でありながら色を好み、肉を食らう風狂の禅師といわれ、自由奔放で破壊的な顔を持つ一方、生涯にわたり真の禅の在り方を求めた高僧でもあります。一筋縄ではいかない禅の道を詠んだ本作は、伸びやかで気品高いかな文字が光ります。流麗さと厳しさが複雑に同居するたたずまいは一休墨蹟の真骨頂。聖と俗、相反するものをすべて飲み込んで生きた一休宗純の精神性に触れることができる貴重な作品です。
【読み】名にめてゝ一休會裏にあつまれとひとつもやまぬ我慢情しき参しつる古則話頭もなにならす本のこゝろはもとのまゝにて古歌人のうえかゝみにかけて見しとかの我身に成てなそくもるらん
2024.06
紙本 淡彩 木村東介箱書 松坂屋「浮世絵肉筆名品展」出品
32×53㎝ / 117×55㎝
浮世絵師、葛飾北斎は類稀な表現力と圧倒的な画技を持つ日本美術の巨匠であり、その作品は現代の芸術家にも影響を与えています。十返舎一九は江戸時代最大のベストセラーともいわれる小説『東海道中膝栗毛』の作者であり、両者の画賛による本作はまさに江戸を代表するスター作家の共演といえる贅沢な逸品です。
洒脱な北斎の淡彩画に対し、賛は「天のはらふりさけみれは目のうへにかゝるかすみや遠山の眉」とあり、安倍仲麿が望郷の心を詠んだ和歌に準えているのでしょうか。かすみ目に映る景色は故郷ではなく美人の眉、というのが洒落好きらしい一句です。
2024.04
双幅 絹本 着色 共箱
小学館『渡辺省亭画集』所載、小学館『渡辺省亭―欧米を魅了した花鳥画―』所載
135×60㎝ / 223×64㎝
明治から大正にかけて、花鳥画の名手として名を馳せた渡邊省亭。その類まれな美的感覚と精緻な画技はあらゆる美を描き出しました。
本作は、魔除けとして端午の節句に掲げられる鍾馗と、登竜門の故事から立身出世の象徴とされる鯉の双幅です。鍾馗がボールに見立てた鬼の姿や、鯉の頭上に咲く花の鮮やかさなど、省亭らしい軽妙洒脱さが魅力です。「明治癸卯重五省亭義復繪」と款記されていることから、明治36年の端午の節句にあわせて制作されたものだとわかります。省亭53歳、円熟期を象徴する優品です。
2024.03
絹本 着色
小杉放庵・山中蘭径箱書 月峯辰亮・義亮極書
90×34㎝ / 180×48㎝
今年で生誕300年を迎える池大雅は、江戸時代を代表する文人画家の巨匠です。旅をこよなく愛し、全国各地に足を運んでは目にした自然を絵画にしました。
中国風の山水をダイナミックに描いた本作は、賛に中国唐代の詩人、孟浩然の『宴張記室宅』の一節、「島の周り、船上で酒を酌み交わし、眼前に山が現れては、詩を詠む」とあり、文人の雅な宴が思い浮かびます。しかし、実はこの詩の最後は「寧ぞ知らん書剣する者の、歳月獨り蹉跎たるを」と結ばれ、人生のうたかたを詠ったもの。大雅の圧倒的な画力による山水風景の端然とした美と、孟浩然の詩が混然一体となることで、人の世の儚さやもののあはれが際立ちます。まさに詩画一致、類稀なる文人画の逸品です。
2024.02
紙本 淡彩 共箱 岩波書店「平福百穂画集」所載
174×94㎝ / 235×115㎝
平福百穂は明治から昭和初期にかけて活躍した秋田出身の日本画家で、写実性の高い自然主義的な作品を多く描きました。動物画の中でも鳥についてはとくに熱心に研究したといわれており、実際に鴨や七面鳥を飼い観察したのだとか。
本作は岩波書店「平福百穂画集」所載の一品。冬の水辺に羽を休める雁の一群が描かれています。没骨法と墨の濃淡によって雁の姿を的確に捉えており、構図の妙が自然主義の画風に独特の装飾性を加えています。その表現は代表作のひとつである「鴨」(東京大正博覧会出品)にも通じるものであり、アララギ派の歌人でもあった百穂の叙情的な絵画世界を堪能できる優品です。
2023
2023.12
絹本 着色 円山應瑞鑑定書
31×88㎝ / 130×94㎝
江戸絵画の巨匠、円山應挙による本作は、親子と思しき熊が雪山を歩む姿をのどかな風情で描いています。注目は、随所に光る應挙らしい巧みな技法です。
観察を重視した「写生」によって日本画の新たな地平を切り開いた應挙。とくに動物表現はリアルかつ愛らしさがあり、今なお應挙が愛される所以です。当時まだ珍しかった遠近法を取り入れた絵師でもあり、本作も奥行きのある風景描写が特徴です。また、白雪降り積もる松の佇まいは国宝《雪松図屏風》を想起させる堂々としたものであり、本作は應挙卓絶の画技と表現が見事に凝縮された逸品といえるのです。
2023.11
絹本 着色 横山大観箱書 東美鑑定証書
110×39㎝ / 203×53㎝
菱田春草は横山大観や下村観山らとともに学び、日本近代美術史の発展に尽力したひとりです。優れた才を持ち、将来を嘱望されながらも1911年36歳の若さで生涯を終えます。
本作は落款や印章から、春草の代表作であり近代美術史上の名作と呼ばれる「黒き猫」(1910年)と同時期に描かれた最晩年の作品と考えられます。弱々しく垂れた枝は、病床の春草自身のようです。しかし、枝先に実る鮮やかに熟した柿や、まっすぐに空を見つめる若々しい目白の姿には、将来に希望を持ち続けようとする春草の願いが宿るようです。
見る者の琴線に静かに触れる、春草、渾身の一幅です。
2023.10
絹本 着色 昭和10年東京美術倶楽部舊大名並某家蔵品入札目録所載 昭和14年東京美術倶楽部伊藤平山洞蔵品入札目録所載
114×43㎝ / 212×59㎝
長澤蘆雪が中国三国時代の武将、関羽を描いた本作。髭の美しさから人々に「美髯公」と親しまれた関羽の気高さや気品を表すように、実に繊細に描かれています。勇猛で気迫に満ちた風情の関羽に対し、背後の従者はどこかとぼけた様子で描かれており、蘆雪らしい奇知と妙味が垣間見えるのも本作の魅力です。南紀から京都に戻った34歳以降の作と考えられ、関羽の衣や青龍偃月刀に見られる緩急自在で端正な筆致からは、意気軒高、将来への希望に満ち溢れた円熟期の蘆雪自身の姿が想像できる作品です。
2023.09
六曲一双屏風 絹本 着色
153×358㎝ / 170×576㎝
木島桜谷は、近代日本画の雄として再評価の機運が高まる絵師です。明治10年に京都の商家に生まれ、16歳で花鳥画の名手である今尾景年に師事した桜谷は、緻密で優美な動物画で一躍名を馳せます。中でも得意としたのが、「鹿図」です。本作は明治40年頃、文展で連年上位入賞を果たした壮年の作で、桜谷が得意とした付立(輪郭線を用いず、色の濃淡で形や質感を表す技法)によって、寛ぐ鹿の群れが描かれています。徹底した写生によるリアリティと、野生動物の本質を捉えた神秘的で清らかな世界観を併せ持つ本作は、これぞ桜谷といえる逸品です。
2023.07
絹本 着色 共箱 東美鑑定証書
129×42㎝ / 220×56㎝
大正から昭和に活躍した小林古径は、近代日本画を新古典主義という新境地に導いた画家のひとりです。画題の馬郎婦とは中国唐代の伝承で、仏教を広めるため女性の姿を借りて現世に姿を現したとする観音のこと。大正15年頃に描かれた本作の類品が東京国立近代美術館に収蔵されています。本作では古径の芸術性を象徴する清澄な「線の美」が随所に見られ、艶やかな黒髪や衣の表現は圧巻です。格調高い描線、そして慈愛に満ちた馬郎婦の表情からは、女性の優美さと観音の神聖さの双方を余すところなく描かんとした古径の真摯な情熱が伝わってきます。
小林古径の詳細はこちらから→ 作家詳細へ
2023.01
双幅 絹本 着色
100×36㎝ / 183×47㎝
長澤蘆雪は江戸中期の絵師であり、円山應挙の高弟です。應挙の緻密な作風に対して、大胆で自由奔放な表現が持ち味で、生き生きとした動物画は時代を超えて人々を魅了します。
ご紹介するのは、鶴と亀を描いた縁起の良い双幅。一方には親子と思しき鶴が描かれ、足元に咲く蓮華が雛鳥の巣立ちの季節を感じさせます。もう一方には、勢いよく流れ落ちる滝とそれを静かに見つめるつがいの亀が描かれ、両者の対照的な時の流れが印象的です。蘆雪の卓越した画技が捉える瑞々しい生命力と長寿を願う心が込められた本作は、新たな年明けに相応しい逸品です。
長澤蘆雪の詳細はこちらから→ 作家詳細へ
2022
2022.10
絹本 着色 共板 額装 横山大観記念館登録O第14号
51×66㎝ / 77×92㎝
青く澄んだ秋空に冠雪の富士が神々しい姿を見せる本作。薄墨による山の稜線は次第に空に溶け、美しいその頂ははるか天上の世界の趣を感じさせます。落款から昭和23年以降、画壇の最高位に君臨してなお旺盛に制作を行った円熟期の作品とみられます。絶筆の「不二」に至るまで1500を超える富士を描いた大観が生前、「(富士を)描くかぎり、全身全霊をうちこんで描いている」と語った通り、いずれの作にも理想の日本画を求め続けた彼の気高い精神が現れています。大観の眼差しを思わせる静かな威厳に満ちた本作も、紛うことなき逸品といえるでしょう。
横山大観の詳細はこちらから→ 作家詳細へ
2022.08
絹本 着色 共箱 河出書房新社「伊藤彦造イラストレーション新装・増補版」所蔵
113×32㎝ / 194×47㎝
明治三十七年、剣豪・伊藤一刀斎の末裔として大分県に生まれた伊藤彦造は、幼少より父から真剣を用いて剣道の手ほどきを受け、自らも剣の師範となりました。後に挿絵画家となってからは、他の画家とは一線を画する迫真の人物描写で人々を魅了します。本作で描かれているのは女性の生首を手にした幽霊。怨嗟のこもった幽霊の眼差しや生首となった女性の茫然自失の表情は、まるで彦造がその目で見て来たかのように生々しく、鑑賞者を恐怖に誘います。武人として命の駆け引きを知る彦造にしか描けない迫力と気魄が漲っています。
また、現在、噺家・三遊亭円朝の幽霊画コレクションが全幅展示される「幽霊画展」が全生庵にて開催されています。猛暑の中、圧巻の幽霊画で涼をとってみてはいかがでしょうか?
幽霊画展の詳細はこちらからご覧ください → 「全生庵-山岡鉄舟ゆかりの寺-」のHPへ
2022.07
2022.06
紙本 安田靫彦箱書 中央公論美術出版「良寛墨蹟大観第二巻」所載 中村岳陵旧蔵
24×10㎝ / 191×44㎝
生涯、清貧を貫き、飾らない人柄と純真で気高い生き様が人々に愛された僧、良寛。
本作は良寛の書のなかでも希少性の高い、楷書作品です。74年にわたる生涯のなかで数々の書を残しましたが、55歳以降は草書が圧倒的に多くなるため、本作は比較的若い時期の作品だと推察できます。良寛の人柄を表すような素朴で温かみのある線に、偏と旁のバランスが絶妙な緊張感を与えています。さらに、楷書独特の硬質で厳しさを感じさせる書風が混然一体となり、世俗を超越した良寛の高い精神世界に触れるようです。本作は中村岳陵の旧蔵品です。
大愚 良寛の詳細はこちらから→ 作家詳細へ
2022.05
2022.04
紙本 着色 円山應震鑑定書
104×45㎝ / 185×59㎝
円山派の祖、円山應挙は狩野派を学びましたが、青年期には眼鏡絵を描き、西洋画の遠近法を学びました。さらに、中国の写生画の技法をとりいれ、独自のスタイルを築き、その後の画壇に大きな影響を与えていきます。本作は遠近法を用いた奥行きのある構図が特徴の作品で、落款から天明六年(53歳)以降、應挙充実期の作品であるとわかります。
近景に幹を交差するように立つ2本の松と装飾的に配された桜が描かれており、右から左へと吹きつける海風と、それに動じぬ木々の力強さを感じさせます。対照的に、遠景には穏やかな海景が描かれ、画面の中に静と動が見事に表現されており、まさに「写生画の祖」といわれる應挙の技術が詰まった春にお薦めの逸品です。
円山應挙の詳細はこちらから→ 作家詳細へ
2022.02
紙本 中村不折・松岡譲箱書
116×35㎝/208×49㎝
読み:芳菲看漸饒韶景蕩詩情却愧丹青技春風描不成
夏目漱石は代表作『坊ちゃん』などを通じて、当時、真新しかった西欧流の近代個人主義をユーモアたっぷりに描いた作家ですが、一方では漢詩を学び、東洋的な深い教養をもった人物でもあります。
この詩には、春の草花が芳しく香る風景に心を動かされた漱石の、その美しさを思うように表現できないもどかしい心が読まれています。漱石ですら直面した表現の葛藤や苦悩が生々しく詠われた本作は、却って文豪の琴線に触れた情景の素晴らしさを私たちに思い起こさせてくれる逸品です。
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2022.01
紙本 水墨 二玄社「白隠禅画 墨蹟」所載
36×57㎝/126×60㎝
白隠の禅画において布袋は、白隠自身のメタファーと言われ、七福神の中で最も多く描いたとされています。本作は、布袋が壽(いのちながし)の文字が描かれた着物を着た妙齢の女性、お多福を「きばって」吹き出している、白隠らしいユーモラスな作品。酒色にふけ煙草を吹かした姿はまさに道楽者そのもの。長寿と幸福をもたらすお多福が吹き出す様子に白隠は、人々に長寿と幸福を願うことこそが道楽であるというメッセージを込めたのではないでしょうか。禅画を通して禅の教えを人々に伝え続けた白隠の真髄が、存分に発揮された作品です。
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