Yulia’s Voyage to Japanese Art ユリアの日本画浪漫紀行

vol.01
羽子
伊東深水 Ito Shinsui
伊東深水 羽子


絹本 着色
142×67m
廣澤美術館 所蔵

vol.01 迎春

あけましておめでとうございます。

はじめまして、マドモアゼル・ユリアと申します。

私は普段、着物のスタイリングや着付け教室、ファッションのお仕事やDJやなどを行っています。お察しの通り、日本美術に関して特に詳しいわけではなく、専門的な見識もございません。ですが、日本美術を観賞するのは大好きなのです。これから一年間、そんな私の視点から観た日本画のお話をさせていただければと思っております。どうぞよろしくお願い致します。

日本の古い写真や絵画を見ると、まず最初に着物の着こなしや柄に目が奪われます。特に日本画からは学ぶ点が多く、着物の色柄には季節やどういうシチュエーションなのか、年齢などの情報が詰め込まれていて、物語を想像すると楽しいです。

今回の題材である伊東 深水の「羽子」(廣澤美術館蔵)はタイトルの通り、松の描かれた羽子板を持った女性がモデルの作品です。まさに今、新春にふさわしい、お正月の景色です。

伊東深水は東京の深川の生まれ、深水の過ごした当時の東京は、まだ着物姿の人々が行き交う江戸の香りの残る景色だったと思います。特に深川は江戸時代に「辰巳芸者」と呼ばれる“粋”な芸者さん達がいる事で有名な場所でした。昭和初期までそんな粋な気風を残す芸者さんもまだいらっしゃった花街だったそうです。

そんな花街の景色を間近に見て育った深水にとって、和装の美しい女性の姿は慣れ親しんだ景色だったのかもしれません。

この画のモデルは、つまみ細工のかんざしと櫛、赤い鹿の子絞りのかわいらしい髪飾り達に、“おぼこい”雰囲気の残るふわっとした眉毛、可愛らしいピンク色の麻の葉模様の着物を着ています(麻の葉模様は、今は鬼滅の刃で有名な柄ですが、江戸時代には歌舞伎の「八百屋お七」の影響で若い女性の間で大流行した柄で、それ以降若い女性を代表する柄の一つでもあります)。また、景色は描かれていないですが、ピンクに染められた頬と指先からは、寒そうな様子も伺えます。そんな中、羽織を羽織って外で羽子板をしている様子から、10代の女の子が庭先か玄関先に出てきている様子かな?なんて想像しました。

この記事を書くにあたり、お嬢さんの朝丘雪路さんのインタビューも読んだりもしたのですが、深水が道ゆく人の着物姿をつぶさにチェックしていた逸話がありました。深水が着物や装身具でキャラクターを表現していることは間違いないく、それがちょっと前までの日本人の持つ感覚だったんだなと思いました。


【筆者のご紹介】 マドモアゼル・ユリア
DJ兼シンガーとして10代から活動を始め、着物のスタイリング、モデル、コラム執筆やアワードの審査員など幅広く活躍中。多くの有名ブランドのグローバルキャンペーンにアイコンとして起用されている。2020年に京都芸術大学を卒業。イギリスのヴィクトリア・アルバート美術館で開催された着物の展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンヴィジュアルのスタイリングを担当。
https://yulia.tokyo/