Yulia’s Voyage to Japanese Art ユリアの日本画浪漫紀行

Vol.06
京乃夕
栗原 玉葉 Kurihara Gyokuyo
栗原 玉葉 京乃夕

絹本 着色 共箱
128×41㎝/197×53㎝

Vol.06 栗原玉葉『京乃夕』

今回は栗原玉葉の「京乃夕」という作品をのお話しです。
実は私、恥ずかしながら栗原玉葉さんを存じ上げなかったのですが、玉葉は生前、東京一の女性画家と言われ「西の上村松園、東の栗原玉葉」とまで呼ばれる存在の方だったそうです。
明治16年に長崎で生まれ、その後は東京を中心に活躍し大正11年に40歳という若さで亡くなりましたが、多数の門弟を抱える人気画家でした。

この作品は「京乃夕」というタイトルから、京都の夕暮れ時の舞妓さんがモデルになった作品かと思われます。
季節はちょうど、5月から今頃でしょうか。裾引きという丈の長い振袖の裾と袖の下の方には、流水に浮かぶ楓が描かれています。舞妓さん特有の「だらりの帯」は5-6月の代表的なモチーフである杜若の文様です。
また、現在でも芸妓さんに比べて、舞妓さんは「おぼこい」(幼い)印象を出すために着物に子どもらしく見える工夫がされているのですが、この作品でもその様子が伺えます。「肩上げ」や「裾あげ」といって、子供のお着物は大きめに仕立てておいて、短く縫い上げて成長に合わせて大きさを調節してゆくのですが、この舞妓さんの肩のあたりにも縫い上らげた「肩上げ」がはっきりと描かれています。
それから印象的な赤い衿、これも舞妓さんの特徴です。舞妓さんが芸妓さんになると衿は白いものに変わります。衿の他にも様々変わる点はあるのですが、芸妓さんになる事を「襟替え」呼ぶくらい、この赤い衿は舞妓さんを象徴するものなのです。この髪型も「おふく」という舞妓さん特有の髪型です。

暑さが増してきた初夏の京都の夕暮れ時、重たい着物を纏った舞妓さんがちょこんと座って、扇子を仰ぐ姿がかわいらしいなぁと思って玉葉さんはこの画を描いたのかな?なんて想像してしまいました。


 

【筆者のご紹介】 マドモアゼル・ユリア
DJ兼シンガーとして10代から活動を始め、着物のスタイリング、モデル、コラム執筆やアワードの審査員など幅広く活躍中。多くの有名ブランドのグローバルキャンペーンにアイコンとして起用されている。2020年に京都芸術大学を卒業。イギリスのヴィクトリア・アルバート美術館で開催された着物の展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンヴィジュアルのスタイリングを担当。

https://yulia.tokyo/