Yulia’s Voyage to Japanese Art ユリアの日本画浪漫紀行

vol.08
立美人図
無落款 Unknown Artist
無落款 立美人図

紙本 着色 井上侯爵家伝来
130×51㎝ / 237×67㎝

vol.08 無落款『立美人図』

日本の美人画・図は、世界でも類を見ない、良い意味でかなり変わったジャンルの絵画だと思います。
特に江戸期の作品は、その構図の大胆さに驚かされます。西洋絵画の常識が刷り込まれた今、こうしてまじまじと鑑賞してみると、影が全く描かれていないだけでなく、背景すらない事になぜ今まで自分は疑問を抱かなかったのか今更ながら衝撃を受けました。構図的には宙に浮いてる状態なのですが、その代わり衣服や髪型などは詳細に描かれています。
同じような構図で菱川師宣の「見返り美人図」がとても有名ですが、江戸初期の寛文期の美人図は「寛文美人図」と呼ばれるそうです。
こちらの作品もその系譜らしく、描かれた女性の多くは、ふっくらとした特徴のあまりない優しい顔立ちに、右手で着物の褄を取り、身体をくの字にしたポージンングをしています。髪型もこちらの作品のように、襟足の部分(髱)を鳥の尻尾のように長くした”かもめたぼ”と呼ばれる江戸初期から見られだした髪型をしている作品もこのジャンルには多く見られました。

また、この作品の女性の着物がかなりオシャレで興味深いです。初秋を象徴する刈り取られ、束ねられた稲穂が大胆に配置された表の着物の下には、横縞模様の着物を着ています。縞文様は、布としては江戸よりもっと前の時代から、海を渡って日本にやってきていましたが、衣服として実際に用いられ始めたのは、桃山末期から江戸初期と言われているそうです。しかも当初、横縞が主流で、遊女など一部の人々の間でのみ着用されていたようです(後に縦縞が主流になります)。
襦袢の緑色も効いているし、着物と同じ赤と緑のラインの入った黒地の帯を締める事で全体の印象が締まります。配色も白、赤、緑、黒にまとめられていて、大陸の影響を受けた安土桃山期の華麗さを残した江戸時代初期のおしゃれ上級者だとお見受けしました。

美人画とは、その時代の理想とする女性の美しさを、姿態や衣服、髪型といった少ない要素に焦点を絞る事によって引き立たせ、鑑賞する側に想像する余地を与えていたのかも!なんて思いました。今考えると、結構斬新な技法ですが、当時は個々に想像を巡らせてそこに自分の理想を投影していたのかもしれません。そんな鑑賞の仕方、浪漫があっていいなと思いました。


 

【筆者のご紹介】 マドモアゼル・ユリア
DJ兼シンガーとして10代から活動を始め、着物のスタイリング、モデル、コラム執筆やアワードの審査員など幅広く活躍中。多くの有名ブランドのグローバルキャンペーンにアイコンとして起用されている。2020年に京都芸術大学を卒業。イギリスのヴィクトリア・アルバート美術館で開催された着物の展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンヴィジュアルのスタイリングを担当。

https://yulia.tokyo/