Yulia’s Voyage to Japanese Art ユリアの日本画浪漫紀行

Vol.09
美人図
北野 恒富 Kitano Tsunetomi
北野 恒富 美人図

紙本 着色 額装
89×58㎝ / 108×77㎝

Vol.09 北野恒富『美人図』

ギョッとする。初めてこの作品を拝見した時、持った印象はまさにこれでした。
笑っているんだけど白い歯にかかった影がなんだか不穏だし、黒目って多少大きい分には幼く見えて可愛いはずなのに、それを通り越して大きすぎて奇妙です。
銀鼠の背景に黒と白が大半の色彩。そこに返した衿の挿し色で赤という強い色が入ってきて、かなり強烈で脳裏に焼き付きそうです。

ですが、よくよく見ているとだんだんと私の中での印象が変わってきました。髪の毛は後れ毛までが一本一本細かく描かれていたり、生え際や耳元の白粉の塗られていない部分に見えるピンク色の肌、見れば見るほどすごくリアルに描かれている部分に引き込まれていきました。パッと見た印象では異相の女性として観賞していましたが、リアルさに直面すると彼女の小さな前歯やフワッとした眉毛、丸い鼻や葵の葉の着物とかんざしなど、色々と可愛く見えてきたので不思議です。
強烈な配色などから、人間の温かみよりもモダンで象徴的な印象が最初は強かったのですが、よく見ると内面までも描こうとしているくらいにリアルに描かれていて、その人間らしさから親近感が生まれ、まだ幼ささえも感じる女の子がそこに描かれている事に気づきました。

作者の北野恒富は大坂画壇を代表する日本画家です。また同時に「悪魔派」とも呼ばれた妖艶な美人画で知られています。こんな風に呼ばれていたことは知らなかったのですが、とても納得です。
南画や琳派、浮世絵、挿絵などを積極的に学び、その後もアール・ヌーヴォーの影響を受けたりしながら、明治から大正というかなり個性の強い時代から、昭和初期まで大阪で活躍した北野恒富ならではの女性の表現は、同じ美人画でも、上村松園や鏑木清方の描く女性像とは全く違う、どこか人間の内面や生き様を写した様な作品が多く、子供の時にみたら完全にトラウマになっていた気がします。
この作品を楽しめる大人になっていた自分がちょっと嬉しいです。


 

【筆者のご紹介】 マドモアゼル・ユリア
DJ兼シンガーとして10代から活動を始め、着物のスタイリング、モデル、コラム執筆やアワードの審査員など幅広く活躍中。多くの有名ブランドのグローバルキャンペーンにアイコンとして起用されている。2020年に京都芸術大学を卒業。イギリスのヴィクトリア・アルバート美術館で開催された着物の展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンヴィジュアルのスタイリングを担当。

https://yulia.tokyo/