Yulia’s Voyage to Japanese Art ユリアの日本画浪漫紀行

Vol.11
美人図
橘 小夢 Tachibana Sayume
橘 小夢 美人図

紙本 着色 50×43㎝/160×53㎝

Vol.11 橘小夢『美人図』

私が初めて橘小夢の作品を目にしたのは、大学で歌舞伎について調べていた時でした。澤村田之助という幕末から明治にかけて活躍した伝説の歌舞伎役者の版画なのですが、描かれている人物や着ているものは日本的なのに、アール・ヌーヴォーっぽいおしゃれな印象。そこに描かれている澤村田之助は妖艶で、性別なんか超越していて、もはや人間なのだろうか?という不思議な印象でした。

先日、渋谷の松濤美術館で行われていた「装いの力―異性装の日本史」でもこの作品が出ていました。

私は勝手に橘小夢は妖艶でモダンな作風の作家さんだと思っていたので、こちらの作品の描き方や色合い、構成がすごく日本画というか、いわゆる美人画である事に、ちょっと驚きました。私が小夢の作品の幅広さを知らなかっただけなのですが、小夢は洋画は黒田清輝に学び、日本画は川端玉章に学んでいたそうです!

今回の「美人図」、色とりどりの着物や髪飾りがとっても華やかで、特に装身具がとても気になりました。漆の鏡とお揃いの「源氏香」の模様の描かれた櫛と簪はよく見ると、かなり巨大なのですが、特に櫛をおさえるような珍しい挿し方をした簪は、しゃもじくらいの大きさがあり、かなり気になってしまいました。こんなに大きな簪ってあったのでしょうか?それとも鏡の源氏香の模様と同じくらいの大きさで模様を入れるために、小夢得意のデフォルメをして描かれた物なのでしょうか?

この女性の髪型はおそらく「結綿」という髪型だと思います。幕末から明治初期に流行った髪型で、未婚女性の髪型と言われています。島田髷に手絡という鹿の子絞りの布を掛け、稲妻と呼ばれる和紙でできた髪飾りを白、ピンク、赤で重ねています。本当に若い女の子の場合はこの鹿の子絞りに赤を持ってくることが多いのですが、白地に赤の鹿の子絞りの布をかけ、前髪の房紐に水色をチョイスしているあたりに、可愛らしくも、ちょっとお姉さんらしさも感じました。

日本画って髪型やその飾り、服装からどのくらいの時代の人で何歳くらいの人なのか?って事がなんとなく想像できて、それが私の中で日本画を鑑賞する楽しみにもなっています。

和歌に関して知識が乏しく、着物に描かれた和歌を特定できなかったのですが、梅の花の柄から推察すると紀友則の和歌なのかな?と思いました。どなたか詳しい方がいらっしゃいましたら、是非教えてください。


 

【筆者のご紹介】 マドモアゼル・ユリア
DJ兼シンガーとして10代から活動を始め、着物のスタイリング、モデル、コラム執筆やアワードの審査員など幅広く活躍中。多くの有名ブランドのグローバルキャンペーンにアイコンとして起用されている。2020年に京都芸術大学を卒業。イギリスのヴィクトリア・アルバート美術館で開催された着物の展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンヴィジュアルのスタイリングを担当。

https://yulia.tokyo/