PUBLICATIONS 鳥博士高橋の鳥舌技巧!

vol.18 時鳥図
渡邊 省亭 Watanabe Seitei
渡邊 省亭 時鳥図

絹本 着色
102×42cm

vol.18 写真を超えた絵画:時鳥

カッコウの仲間(カッコウ目カッコウ科)は世界に広く分布し、おおよそ150種が知られている。この仲間の大きな生態的特徴として、大半の種が他種の鳥の巣に卵を産んで雛を育てさせる、“托卵”という有名な習性を持つことが挙げられる。多くの場合、托卵先は種毎におおよそ決まっており、相手の生態に合わせた托卵戦術が用いられている。カッコウ類の雌は、托卵相手の繁殖活動をよくよく観察し、抱卵が始まる直前のタイミングで隙を見て巣へ侵入し、中の卵を1つだけかっさらうと、代わりに自身の卵を1つだけ産み込む。それは托卵相手の卵と大きさや色模様が酷似しており、托卵相手はどれが自身の卵でどれが托卵された卵なのかをほとんど見分けることができない。カッコウ類の卵は托卵相手に温められて成長し、先んじて孵化する。その直後から、カッコウ類の雛は巣内にある托卵相手の卵や雛を全て巣外へ放り出し、巣と托卵相手の世話を独占する。そうして雛はすくすくと成長し巣立っていく。一見すると性格が悪いように感じてしまうかもしれないが、進化の過程でどうにか獲得した、彼らが生きるために必要不可欠な性質である。

日本には4種類のカッコウ類(カッコウ・ツツドリ・ホトトギス・ジュウイチ)が主に生息し、いずれも東南アジアから渡って来る夏鳥である。ジュウイチ以外の3種は姿形がよく似ていて見分けにくいが、雄の鳴き声は4種それぞれに特徴的で聞き分けやすく、彼らの和名はその鳴き声に由来する。カッコウは名前の通りに「カッコウ・カッコウ」と鳴き、同様にジュウイチは「ジュウイチ・ジュウイチ」と鳴き、ツツドリ(筒鳥)は「ポポポポ・・・」と竹筒を叩いたような声で鳴く。ホトトギスは「キョキョ・キョキョキョキョ」と鳴き、「テッペンカケタカ」や「東京特許許可局」と聞き表されるが、私にはどうしてもそう聞こえない。「ホトトギスだ!」とやはり自身の名前を叫んでいるように聞こえてしまう。また、これらカッコウ類の雄は、その鳴き方も特徴的だ。彼らは繁殖期中いつでも鳴き続け、日中はもちろん、雨天時でも夜間でも構わずに大声で鳴いている。カッコウは草原や疎林など開けた場所に住むため比較的観察しやすいが、他の3種は深い森林の中に住むため姿を見かける機会はかなり少ない。けれども、その特徴的な鳴き声は遠くからでも響き渡り、彼らがここに住んでいることをいつでも知らせてくれる。さらに、彼らは鳴きながら飛ぶ。それは日中はもちろん、雨天時でも夜間でも構わない。雄は高所を高速で飛び回り、その姿は小さく一瞬しか見えないけれども、彼らを実際に目にすることができる貴重な機会となっている。

さて、そのカッコウ類が鳴きながら飛ぶ姿を、日本の絵師は昔から絵画に描いてきた。それは月夜や雨天の場面が多く、前者では長澤芦雪の「郭公図」(高津古文化会館蔵)や谷文中の「月に杜鵑図」(旧鐙屋蔵)、後者では狩野重信の「鹿ほととぎす図屏風」(九州国立博物館蔵)や歌川広重の大判錦絵「名所江戸百景 駒形堂吾嬬橋」(太田記念美術館蔵)などが代表的である。珍しいものでは、雨後の虹の下を鳴きながら飛ぶ姿を描いた葛飾北斎の「肉筆画帖 虹と不如帰」(北斎館蔵)が有名だ。どれもこれも、カッコウ類自体の描写は写実的とは言い難いのだが、その生態的特徴は正しく捉えられている。

本作品もまた、ホトトギスの雄が飛びながら鳴く姿が描かれている。背景は曇り空で、実際はかなり暗かったに違いない。ひょっとしたら、雨が降っているのかもしれないし、月明かりが薄雲から漏れている夜なのかもしれない。注目すべきはホトトギスの写実性、特に羽毛の色模様の正確性である。カッコウ類は体の色模様がタカ類やハヤブサ類とよく似ていて見間違いやすいが、羽毛1枚1枚をよく見ると明らかに異なる。その類似性と差異が、本作品では実に正しく描き込まれている(翼や尾の羽毛の描写は特に素晴らしい)。空飛ぶカッコウ類を描いたものとしては、最も優れた絵画作品と断言していいだろう。

さらに本作品の写実性は、写真をも超えたレベルにある。絵画芸術にとって、写真の発明と普及はその存在意義を揺るがした大きな歴史的イベントであった。それまでは写実性こそが絵画芸術が目指すべき第一の目標だったはずだが、見たままを正確に写し取ってしまう写真の登場によって、その目標は改めざるを得なくなった。印象派以降の芸術家は、その目標を各自で探り出し探求する必要に迫られ、いずれも苦戦している。けれども写真にも限界はある。暗い条件下で空高く速く飛ぶカッコウ類は、最新の最高性能カメラをもってしても、その姿を大きくハッキリと捉えることは未だ困難である。一方で本作品は、写真では捉えられないその姿を、画家の技巧と創造力によって正確に写し出している。これは明治期の花鳥画であるけれども、現代の写真を超えた究極の写実性を今でも維持している。

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高橋 雅雄(鳥類学者 理学博士)
1982年青森県八戸市生まれ。立教大学理学研究科修了。
専門は農地や湿性草原に生息する鳥類の行動生態学と保全生態学。
鳥と美術の関係性に注目し、美術館や画廊でのトークイベントに出演している。