PUBLICATIONS 鳥博士高橋の鳥舌技巧!

vol.27 迎賓館赤坂離宮・七宝額原画
《淡紅鸚哥に科木》
渡邊 省亭 Watanabe Seitei
渡邊 省亭 迎賓館赤坂離宮・七宝額原画
《淡紅鸚哥に科木》

絹本着色 一面(全三十図のうち)
東京国立博物館 Image : TNM Image Archives

vol.27 異例な外国産鳥類:淡紅鸚哥に科木

本コラム連載で紹介してきたように、省亭は様々な鳥を描いてきた。概観して40種類程度が確認できているが、実はいずれも日本産の鳥類である。省亭と同時代の画家はもちろん、安土桃山時代の狩野永徳や江戸時代の伊藤若冲ですら外国産鳥類を多数描いており、省亭の頑なさは異常のことと思う。「省亭は外国産鳥類を意図的に描かなかった」が、私が繰り返し主張する結論である。

だからこそ、今回取り上げる作品は異例中の異例である。本種はモモイロインコ、オーストラリアに生息する中型のオウムの仲間であり、私が知る限り唯一の、省亭が描いた外国産の鳥である。ちなみに、オウムとインコは近縁だが異なるグループで、オウムは頭に冠羽があるがインコには無い。モモイロインコはインコと呼ばれるが小さいながらも冠羽を持ち、れっきとしたオウムの1種である(和名の付け方を間違ったのだろう)。本作品は、鮮やかな薔薇色の体、頭頂の淡い冠羽、大きな嘴、前向き2本と後ろ向き2本の足指など、モモイロインコの身体的特徴を正確に描写している。おそらく省亭は実物をじっくりと観察して描いたのだろう。

本作品は迎賓館赤坂離宮の壁面装飾の下絵として制作された全30点のシリーズの1つである。下絵通りの七宝額(濤川惣助作)は花鳥の間に飾られ、本作品が基になったものはその中央に堂々と位置している。他の29点も全て鳥が描かれ、27点は日本産の野鳥、残り2点は飼い鳥(ドバトとニワトリ)である。もちろん本作品は唯一無二の外国産鳥類であり、輝かしい30点の中でかなりの異彩を放っている。

どうして省亭は外国産の鳥を描くことにしたのだろうか。そしてなぜモモイロインコだったのだろうか。全30点を俯瞰して、この異例が生み出された背景を推察してみたい。

まずはこれら30点を春夏秋冬に分けてみよう。描かれた鳥に加えて草木も参考し、それらの日本での分布や生態、描かれた様子や状態を手掛かりに季節を判断していく。また、3月~5月を春、6月~8月を夏、9月~11月を秋、12月~2月を冬として、省亭の他作品も参照した。例えば、ジョウビタキ(冬鳥)は牡丹(春の花)と共に描かれているが、本種は春の初め頃も普通に観察されるため、春の絵としよう。また、チドリ類は5羽の群れのみで草木は何も描かれていないが、同様の構図の作品が「十二ヶ月花鳥図」(個人蔵)では11月、十二幅対「千鳥」(個人蔵)では10月として扱われているため、秋の絵であろう。このような感じで30点を振り分けると、春は5点、夏は7点、秋は12点、冬は4点、不明は2点となった。秋の絵が特出して多く、本作品もシナノキが実をつけているので秋の景色である。

次に、鳥の中心的な色でさらに分けてみる。例えば、アカゲラは体の大部分が白黒だが頭と尻の赤色部が目立つため赤い鳥とし、コガモやトモエガモは顔の色が目立つのでそれぞれ橙色と黄色とする。一方でバンは赤い嘴が目立つけれども黒い鳥とする。このような感じで30点を再度振り分けると、派手な鳥が少ない日本産鳥類が主なので、地味な茶色の鳥が圧倒的に多かった(10点)。特に秋で多く(8/12点)、草木の紅葉で作品に色彩が加えられていた。次に多いのは橙(5点)、3位は黒(4点)、4位は緑(3点)で、赤・黄・青・白は2点ずつしかなかった。

ここで注目したいのは赤・橙・黄といった暖色系である。春・夏・冬には鮮やかな暖色系の鳥が1点または2点ずつ描かれており、いずれも色彩的に効いている。けれども秋は様子が違う。私はヤマガラを“秋の橙色の鳥”としたが、彼は灰色の背面を手前に向け、橙色の腹面はほとんど隠れている。実物のヤマガラは橙色がよく目立つ鳥だが、このヤマガラは“橙色の鳥”としていいものだろうか。画面の色彩のみで判断するならば、灰色または黒と分類すべきだろう。そうすると、秋には明るい暖色系の鳥が欠ける。草木の紅葉の色彩で暖色系は補えているけれども、鳥は地味な茶色ばかりだ。それらを鑑みると、1点でもいいから強烈な色彩の鳥がバランス的に必要だったのではないだろうか。しかも、青い鳥は夏を特徴づけ、橙色はどの季節にも出現しているため、他の29点には無い強烈な赤い鳥が求められたのではないだろうか。

日本産鳥類の中に強烈な赤色の種はほとんど居ない。候補を挙げるとすれば、ベニヒワ、オオマシコ、ベニマシコ、イスカなどアトリ科の数種類だが、前2者は数少ない冬鳥で、後2者も多くなく、いずれも日本絵画に描かれることはほとんど無い。彼らは省亭の目に映ること無く、赤の立場を外国産鳥類に譲らざるをえなかっただろう。

さらに、赤坂離宮という場も外国産の鳥を省亭に選ばせた要因だったろう。元々は皇太子時代の大正天皇が暮らす東宮御所として造営された建物であり、外国の賓客を迎える機能も想定されていたはずだ。そうならば、外観は西洋式であっても装飾の細部は日本らしくあるべきで、日本の花鳥は最も相応しい。けれども、全てを日本産鳥類で揃えてしまっていいだろうか。日本の魅力を発信することは大切だけれど、外国を受け入れる寛容性を示すことも装飾に求められたはずだ。そこで省亭が考え出したのが、1羽の外国産鳥類だったのではないだろうか。

省亭は日本国内よりも外国、特に欧米で高く評価されているという。多くの省亭作品が海を渡り、著名な美術館で今も活躍している。一方で、この七宝額30点は日本の代表建築に鎮座し、外国の賓客を迎える役割を今も果たしている。省亭の仕事は、今も昔も国際性を無視して語ることができない。

表1. 迎賓館赤坂離宮の七宝額30点を季節と鳥の色合いで分類した。

高橋 雅雄(鳥類学者 理学博士)
1982年青森県八戸市生まれ。立教大学理学研究科修了。
専門は農地や湿性草原に生息する鳥類の行動生態学と保全生態学。
鳥と美術の関係性に注目し、美術館や画廊でのトークイベントに出演している。


今回のコラムでご紹介した《淡紅鸚哥に科木》が出展中!

渡辺省亭ー欧米を魅了した花鳥画ー
https://seitei2021.jp/

2021年3月27日(木)~5月23日(日)
於:東京藝術大学大学美術館
https://www.geidai.ac.jp/museum/
※本展は事前予約制ではありませんが、今後の状況により変更及び入場制限等を実施する可能性がございます。
最新情報は、ご来館前に再度ホームページでご確認ください。

〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8
03-5777-8600(ハローダイヤル)

2021年5月29日(土)~7月11日(日)
於:岡崎市美術博物館
https://www.city.okazaki.lg.jp/museum/index.html
〒444-0002 愛知県岡崎市高隆寺町字峠1番地
0564-28-5000

2021年7月17日(土)~8月29日(日)
於:佐野美術館
https://www.sanobi.or.jp/
〒411-0838 静岡県三島市中田町1-43
055-975-7278

※《淡紅鸚哥に科木》は東京のみの展示となります。 展示期間:3月27日~4月25日